Scientific and Educational Reports of the Faculty
of Science and Technology, Kochi University
Vol. 8 (2025), No. 1

植物におけるセリンラセマーゼ及びアスパラギン酸ラセマーゼの分布とその進化

宇田 幸司,三歩 泉汰郎

高知大学理工学部比較生化学研究室

要旨

 セリンラセマーゼ(SerR)はD-セリンをL-セリンから合成する酵素であり、その遺伝子は植物に広く分布している。さらに、一部の植物では、SerR遺伝子の重複と基質認識部位である150-152位のアミノ酸残基への変異を通じて、アスパラギン酸ラセマーゼ(AspR)へと進化した例が報告されている。本研究では、他の植物においても同様に、SerR遺伝子からAspR遺伝子への進化が生じているかを検証することを目的とした。GenBankデータベースを用いてSerRのホモログ遺伝子を探索した結果、ヒマワリ(Helianthus annuus)、パチョリ(Pogostemon cablin)、アサ(Cannabis sativa)、コショウ(Piper nigrum)ではゲノム中に2種類のSerRホモログ遺伝子が存在し、150-152位のアミノ酸配列に基づき、片方がAspRとして機能すると推定された。また、ミヤマハタザオ(Arabidopsis lyrata)では遺伝子の重複ではなく、1つのSerR遺伝子から選択的スプライシングにより2種類の転写産物が生じ、片方がAspRとして機能すると予測された。これらのSerRホモログ遺伝子を単離し、リコンビナント酵素を作製して酵素活性を確認したところ、不溶化したものを除いて、予測された基質特異性と一致する酵素活性が確認された。さらに分子系統解析の結果、各植物種において、それぞれ独立にAspRが獲得されたことが示唆された。

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Received: July 14, 2025
Reviewed by anonymous referee(s), and accepted: August 19, 2025
Published: October 14, 2025


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