Scientific and Educational Reports of the Faculty
of Science and Technology, Kochi University
Vol. 5 (2022), No. 3

アカサンゴのアルギニンキナーゼ(AK1)の好冷特性と日本産宝石サンゴの分岐年代の推定

安藤凌1,山新晃弘1,加納義貴1,宇田幸司1,岩崎望2,鈴木知彦1 

1高知大学理工学部生物科学科    ; 780-8520 高知県高知市曙町2-5-1
2立正大学地球環境科学部環境システム学科 ; 360-0194 埼玉県熊谷市万吉1700


要旨

日本近海の水深 80~300 m に分布する刺胞動物の宝石サンゴ,アカサンゴ,シロサンゴ,モモイロサンゴの RNA シークエンスの結果により,全ての種は2種類のアルギニンキナーゼ遺伝子(AK1, AK2)を発現していることが明らかになった.AK1は L-アルギニンに対して強い活性を示したが,一方,AK2 は入手可能なグアニジノ基質のいずれに対しても有意な活性を示さなかった.AK1 においては,結晶構造が判明している Limulus AK のアルギニン結合に関わる 7 つのアミノ酸残基が正確に保存されていた.一方 AK2 においては,基質アルギニン結合部位の中でも特に重要性が高く厳密に保存されている 2 つのアミノ酸残基,75 位の Tyr と 241位の Glu が,それぞれ His と Gly に置換されていた.興味深いことに,このユニークな2箇所のアミノ酸置換は,刺胞動物 Nematostella や軟体動物 Clione の AK においても見出された.Nematostella AK は微弱な AK 活性を残存しているが, 241 位の Gly を正常型の Glu に変異させても AK 活性の増強は見られなかった.これらのことから,このユニークな置換を持つ AK2 は未知のグアニジノ基質に対して活性を示す可能性が示唆された.
今回の研究では,アカサンゴ AK1 の酵素活性を広い温度範囲において測定し,この酵素が好冷特性を持つかどうかを確かめることを主たる目的とした.その結果,AK1 反応の活性化エネルギー (Ea) は 27.5 kJ/mol と決定され,また,好冷性酵素判別パラメータ,Δ(ΔHo‡)p-m 及び Δ(TΔSo‡)p-m ,はそれぞれ,-23.1,-24.8 kJ/mol と計算された.これらの値は,アカサンゴ AK1 が好冷性酵素であることを強く示唆している. AK1 および AK2 のアミノ酸配列に基づき,日本産三種類の宝石サンゴの分岐年代を UPGMA 法によって推定した.刺胞動物と環形動物の分岐を5億 2500 万年前と仮定すると,AK1 のアミノ酸配列からは,アカサンゴは 510 万年前にシロサンゴ,モモイロサンゴのグループから分岐したと推定された.シロサンゴとモモイロサンゴの分岐は 340 万年前と計算された.また,AK2 配列からは,前者の分岐は,990 万年前と計算され,AK1 の分子進化速度とはおよそ2倍 の違いが見られた.一方,シロサンゴとモモイロサンゴの分岐は AK1 とほぼ同様の値(330 万年前)であった.

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Received: January 5, 2022
Reviewed by anonymous referee(s), and accepted: January 18, 2022
Published: January 26, 2022


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