Scientific and Educational Reports of the Faculty
of Science and Technology, Kochi University
Vol. 5 (2022), No. 2

フォスファゲンキナーゼの GS 領域のアミノ酸欠損と酵素活性発現の関連

市成秀一 ・鈴木知彦 

高知大学理工学部生物科学科 ; 780-8520 高知県高知市曙町2-5-1


要旨

フォスファゲンキナーゼ(PK)ファミリーに属するクレアチンキナーゼ(CK)やアルギニンキナーゼ(AK)は基質特異性が高く,それぞれ基質クレアチンやアルギニンにのみ酵素活性を示す.ところが,環形動物に存在するロンブリシンキナーゼ(LK)は,主基質ロンブリシンだけでなく,タウロシアミン,アルギニン,グリコシアミンに対しても酵素活性を示す. このように,LK の基質認識システムは CK や AK と比べると著しく弛緩している,言い換えれば LK には様々なグアニジノ基質に対応する「可塑性」がある.GS(guanidino specificity)領域は PK のグアニジノ基質の認識に関与しており, PK の種類ごとに GS 領域内に特徴的なアミノ酸残基の欠損を示す:グリコシアミンキナーゼ(GK)は欠損なし,CK は1残基欠損,AK,LK,タウロシアミンキナーゼ(TK),ハイポタウロシアミンキナーゼ(HTK),オフェリンキナーゼ(OK)は5残基欠損を持つ.本研究では,シマミミズ LK,タマシキゴカイ TK,オウムガイ AK,ゼブラフィッシュ CK,スジホシムシモドキ HTK を材料に用い,それらの GS 領域に Ala 残基を複数パターン挿入した変異体を作成した.CK,AK,HTK の GS 領域に Ala を1残基挿入すると(1A 変異体),その主活性(触媒効率:kcat/Km)は野生型の 0.8%以下に劇的に低下した.これは, AK,CK,HTK では,GS 領域上での基質認識が最適化され,それぞれの酵素の基質特異性が決定されていることを示唆している.一方,LK-1A 変異体では,主基質ロンブリシンに対して,野生型の23%の活性が残存していた.加えて, Ala の挿入数を 4 残基まで増加させても,その活性は LK-1A と大差なかった.また,興味深いことに,LK-1A から LK-7A までの 7 種類の変異体は,副基質タウロシアミンに対して野生型と同程度の活性を維持していた.

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Received: January 5, 2022
Reviewed by anonymous referee(s), and accepted: January 13, 2022
Published: January 26, 2022


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