Scientific and Educational Reports of the Faculty
of Science and Technology, Kochi University
Vol. 3 (2020), No. 1

疫病菌Phytophthora infestansの2種類のタウロシアミンキナーゼの酵素特性

鳥海秀人・鈴木知彦
Hideto Torinoumi and Tomohiko Suzuki

〒780-8520 高知市曙町2-5-1 高知大学理工学部比較生化学研究室

要旨

 フォスファゲンキナーゼ(PK)は,ATPのリン酸基をグアニジノ化合物に転移し,高エネルギー化合物のフォスファゲンを合成する反応を可逆的に触媒する酵素群の総称であり,エネルギー代謝において重要な役割を果たしている.タウロシアミンキナーゼ(TK)もその一つであり,環形動物,扁形動物,そして単細胞生物などのそれぞれ一部に分布している.単細胞生物である疫病菌Phytophthora infestans(以下,P.infestans)はトマトやジャガイモ等に寄生し,農作物大きな被害を及ぼす.P.infestansには,2種類のPK(1ドメイン型及び2ドメイン型酵素)が存在しており,両者ともタウロシアミンに対して基質特異性を示すことが示された(それぞれTK1およびTK2).疫病菌が感染する植物細胞はTKを発現していないことから, TK酵素の機能解明とその阻害剤の開発は,新たな疫病菌対策に繋がる可能性がある.
 本研究では先ずP.infestans TK1及びTK2それぞれに対して詳細な活性測定を行い,完全な酵素パラメータ(4種類の解離定数:KaTau, KiaTau, KaATP, KiaATP,及び触媒定数 kcat)を決定した.その結果,酵素とタウロシアミンに対する親和性を表すパラメータKaTauはTK1で0.34 mM ,TK2で0.77 mM となり,TK1の基質親和性がTK2より2倍高かった.一方,ATPに対する親和性KaATPはそれぞれ0.55 mM,0.85 mMであった.また両者の触媒定数(kcat)はTK1 で 98 s-1 ,TK2で 189 s-1であり,TK2が活性ドメインを二つ含むことを考慮すれば,ドメインあたりの触媒定数はほぼ同等であることが分かる.また両者の触媒効率(kcat/KaATP/KiaTau)はTK1で 117 mM-2・s-1,TK2で100 mM-2・s-1 と計算され,ドメインあたりの触媒効率ではTK1が2倍以上優る.
 次に,P.infestans 2ドメイン型TK2のドメイン1(TK2-D1)とドメイン2(TK2-D2)を切り離し,それぞれのリコンビナント酵素を作成したが,ドメイン1は発現量が極めて低く酵素活性の測定には至らなかった.一方,ドメイン2では,KaTauが1.01 mM ,KaATPが4.46 mMと決定され,この値を2ドメイン型酵素TK2と比較すると特にATPに対する親和性が5倍低下していた.また,TK2-D2の触媒定数と触媒効率はそれぞれ5.1 s-1及び2.5 mM-2・s-1であり, TK2のそれぞれ37分の1及び40分の1に低下していた.このことから,両ドメイン間に相互作用が存在し,それが触媒効率を高めている,すなわち2ドメイン型TKに協同性が存在する可能性が示唆される.また,単離されたTK2-D2酵素は安定性が低く,4℃で保存しても12時間後にはその活性が69%に低下しており,ドメイン2単独では構造的に不安定であることが予想される.
 これまでに報告されている様々な2ドメイン型PK酵素,及び単離されたドメインの触媒定数から総合的に判断すると,ヨロイイソギンチャクAnthopleura japonicaの2ドメイン型AKにおいてのみ,ドメイン間に明白な相互作用が存在し,その結果kcatを増大させる強い協同性が生じていると結論される.その構造基盤としては, 両ドメインの接触部位に存在するArg122(ドメイン1)とAsp408(ドメイン2)間のイオン結合が関与している可能性がある.

 

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Received: March 13, 2020
Reviewed by anonymous referee(s), and accepted: March 17, 2020
Published: April 9, 2020


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