研究紹介
化学生命理工学科 杉山成研究室 : 2026/02/26
研究紹介
本研究室では脂質などの難溶性化合物と生体高分子の分子間相互作用をX線・中性子線解析法、等温滴定型熱量測定等のさまざまな手法を用いて原子レベルで明らかにすることを目的に研究を進めています。
脂溶性化合物とタンパク質の相互作用の本質を理解し、その生理機能を解明するためには、まず“脂溶性化合物を如何にして扱うか”といった重要な技術的課題を解決する必要があります。なぜなら、脂溶性化合物は水に溶けにくく、ある程度水に溶ける分子を対象とした現在の実験手法は大部分適応できないからです。これらの障害を取り除くことのできる技術開発も同時に進めながら、生命科学をベースとして脂質などの脂溶性化合物とタンパク質の相互作用の解明を進めています。
- 凝固ゲル中結晶化法の汎用化へ向けた技術開発
凝固ゲル中結晶化法とは,凝固ゲル中で育成させる結晶化技術です。
従来、溶液中で育成させることが常識とされてきたが、本研究室ではタンパク質結晶がゲル中でも育成できる新規結晶化法を発見しました。
さらに、その結晶が従来の結晶には無い高い優位性を有することを見出しました。
その優位性とは、凝固ゲル中結晶は薬剤の溶解に良く用いられる有機溶媒や物理変化に強いという特性です。
その結果、乾燥や高濃度の有機溶媒に対して耐性を有することを実証し、その理由が結晶内部に包含されているゲル繊維の3次元構造に起因することを解明しました。
このように本方法は,これまで困難であった難水溶性化合物とタンパク質との複合体構造を取得するための革新的な方法となるため,その汎用化に向けて技術開発を進めています。
- 生体高分子における脂質認識機構の解明
脂質は、生命を維持するのに必要なエネルギー源であるばかりでなく、代謝調節を担う重要な情報伝達分子です。
脂肪酸結合タンパク質(FABP)は、水に難溶な脂肪酸をFABP内に取り込むことで可溶化し、ミトコンドリア等へ脂肪酸を運搬する役割を担っています。
しかし、どのようにしてFABPは、特定の構造や静電相互作用を持たない脂肪酸を認識しているのでしょうか?
本研究室では、鎖長の異なる各種脂肪酸とFABPの精密な複合体構造から脂質認識機構を明らかにすることを目的に研究を進めています。
- 脂溶性ポリアミンの細胞内濃度調節機構の解明
ポリアミン(代表的なものとしてプトレスシン、スペルミジン、スペルミン)はウイルスからヒトに至るまで生物界に広く存在しており、RNA/DNAの安定化、膜の安定化、細胞増殖・細胞分裂の制御、タンパク質合成など、生理活性物質として生命活動維持に重要な役割を果たしています。
例えば,細胞内ポリアミン濃度が低下すると細胞増殖に影響を及ぼし、過剰になるとアポトーシスを誘発します。ポリアミンは種々の刺激に応答してその量が変動するため、ポリアミンと相互作用する酸性物質(DNA、RNA、リン脂質、ATP等)の重要な機能が、ポリアミン量の変化により大きく影響されることが予測されます。
本研究室では、構造生物学的なアプローチによって細胞内のポリアミン濃度調節機構の解明を進めています。
- RNAアプタマーの分子認識機構の解明
RNAアプタマーは、タンパク質などの標的分子に対して抗体のような高い親和性と高い特異性を有する核酸分子です。
化学合成で大量合成が可能で改良も容易であるといった抗体にはない特徴を持っています。そのためRNAアプタマー医薬は抗体医薬に代わる次世代医薬として注目されています。
しかし、 RNAが「マイナス」の静電気を帯びているため「プラス」の静電気を帯びたタンパク質しか標的にしにくいこと、またタンパク質とRNAアプタマーの複合体の立体構造があまり解明されておらず、その作用機構が不明であることなどの課題も残されています。
本研究室では、千葉工業大学の坂本泰一教授との共同研究によりアプタマー医薬品の開発につながる作用機構の解明を進めています。