研究内容
数学物理学科 志賀 雅亘 研究室 : 2026/01/21
ミクロ測定を通した強相関物質の物性解明
この世の中に存在する物質は、多彩な物理的性質(物性)を示すことが知られています。物性といっても様々な観点があります。例えば、電気的性質では、電流の流れにくさ(電気抵抗)により金属・半導体・絶縁体など分類できます。他にも、磁気的性質、熱的性質など様々な観点あります。これらの物性には、物質中に高密度(~1023個/cm)で存在する電子が重要な役割を担っています。我々が注目する強相関物質では、電子間同士で強い相互作用が働くため、通常の物質では発現しない特異な物性が現れます。強相関物質が示す特異な物性は、多くの研究者に注目され、これまでに国内外で理論・実験研究が行われてきました。例えば、実験研究では、電気抵抗(電気的性質)・磁化率(磁気的性質)・比熱(熱的性質)測定などのバルク物性値の測定が多く行われています。一方で、強相関物質の中には、物性発現のメカニズムが分かっていないものもあります。我々は、強相関物質における特異な物性発現のメカニズムを明らかにするためには、バルク物性値の測定だけではなく、ミクロな観点から測定が重要だと考えました。
そこで、我々が注目した測定手法が点接合分光法です。この手法では、右図のように、探針と試料(強相関物質)を数 nmという微小面積で接触させた状態で電気伝導測定を測定します。これにより、電子状態密度というものを直接測定することができます。電子状態密度は、物質固有のものであり、物性を決める重要な要素です。そのため、点接合分光実験によって、強相関物質の電子状態を直接的に測定することができれば、特異な物性の発現メカニズムの解明につながります。
現在は、強相関物質のなかでも特に希土類化合物に注目し、点接合分光法を通した電子状態測定から物性の解明を行っています[M. Shiga et al., Phys. Rev. B (Lett.) 103,L041113 (2021)他]。
高圧下での電子状態測定手法の開拓と応用
強相関希土類化合物では、極低温において様々な基底状態が現れることが知られています。一般的な強相関希土類化合物の相図は、右図に示すドニアック相図で表されるます。この相図では、縦軸に温度、横軸に伝導電子とf電子の相互作用(c-f混成)の強さをとっています。この相図から分かるように、c-f混成強度が弱い場合、極低温において磁性相が現れます。c-f混成強度が増加すると、非磁性相が安定化します。特にこの相図で重要な点は、磁性が絶対零度において消失する点であり、これを量子臨界点と呼びます。この量子臨界点では、非従来型の超伝導相や異常金属状態などのいまだに解明されていない多くの物理現象が現れます。一方、量子臨界点直上に位置する物質は、現在までに多くは発見されていません。そこで、量子臨界点で発現する物理現象を解明するためには、量子臨界点近傍に位置する物質に対して、外場によりc-f混成強度を変化させることで、量子臨界点直上に持っていく必要があります。これまでの先行研究により、希土類化合物に研究室で発生できる圧力(P < 3 GPa)を印可すると、c-f混成強度が変化することが分かっています。一方で、物性の発現メカニズムを明らかにするためには電子状態測定が重要ですが、高圧下での電子状態測定について確立された手法は多くありません。
そこで、我々の研究室では、量子臨界点で現れる物理現象を解明するため、強相関希土類化合物の高圧下における電子状態測定手法の開拓を目指しています。具体的には、点接合分光実験を高圧下で行えるような実験装置や測定手法の開拓を行っています。
点接合分光法とデータ駆動科学の融合による先端分光測定手法の開拓
実験研究においては、高精度な計測データの取得と同時に解析手法も重要になります。例えば、我々の研究では、実験により得られた分光スペクトルから強相関物質の物性に関する情報を抽出するため、理論モデルを用いて分光スペクトルを解析する必要があります。一般的な手法では、右図に示す通り、解析者の知識や経験から解析モデルを決定し、最小二乗法により計測データを再現します。一方、解析モデルの決定に人間を介してしまうことで、計測データの重要な情報を抽出できない可能性があります。そこで、我々は、データ駆動科学の手法の一つである「ベイズ計測」に注目しました。ベイズ計測では、ベイズの定理を用いることで、計測データから解析モデルを推定します。つまり、数理科学的手法により解析モデルの決定できるため、計測データの高精度解析が可能になります。
現在我々は、「点接合分光法」と「ベイズ計測」を組み合わせることにより、先端分光測定手法を開拓し、強相関物質の高精度な電子状態測定を通した物性の解明を目指しています。