研究内容
山崎研究室 : 2018/07/28
研究の概要
生物は遺伝子の発現を調節する仕組みをいくつも持ち、それぞれの仕組みが様々な階層と場面で機能する複雑で綿密な遺伝子発現ネットワークが構成されています。この中で、私たちはmicroRNA (miRNA)と呼ばれる小分子RNAが遺伝子発現を負に制御する仕組みとその生理的役割に着目して研究を行っています。miRNAは自身と相補する配列をもったmRNAに作用して遺伝子発現を調節するのですが、では一体このmiRNAがどのようにして作られ、どのように作用し、そしてどういった生命現象に関与しているのでしょうか?その分子メカニズムの多様性と共通性を、単細胞真核生物のクラミドモナスを使った研究から解明することを目指しています。
クラミドモナスのmiRNA生合成・作用メカニズムについて
クラミドモナスにおけるmiRNA生合成に必要な遺伝子や、mRNAに働きかけるために必要な遺伝子を、遺伝学的手法で探し出しています。
miRNAは21塩基前後の1本鎖小分子RNAです。miRNAはゲノム上のmiRNA遺伝子にコードされ、これが転写されることでmiRNAの生合成が始まります。初期転写物(primary miRNA)は、分子内の相補配列が結合してヘアピン構造をとります。すると2本鎖RNA切断酵素ダイサー(Dicer)とRNA結合タンパク質の働きによって多段的に加工され、2本鎖miRNAが出来上がります。2本鎖miRNAはアルゴノートタンパクに取り込まれ、そのうち1本鎖だけが残って複合体(RISC)を形成します。RISCはmiRNAと相補する配列を持つmRNAに結合し、mRNAを切断したり、mRNA上の翻訳反応を抑制したりします。
miRNAの作られかた、作用のしかたを様々な真核生物の間で比較すると、ダイサーとアルゴノートが関わる幹となる反応は保存されています。その一方で、反応の細部は進化の過程で多様化・複雑化しています。また、こうしたmiRNAの生合成や作用メカニズム関する研究は多細胞モデル生物で進んでいる一方、単細胞生物を使った研究はほとんど行われていません。私たちは、miRNAの起源や多様化に関する問に答える一つの方法として、単細胞緑藻のクラミドモナスを使って研究を行っています。
私たちの研究室ではmiRNAの機能しない突然変異体の単離・解析を行って、miRNAの生合成やmiRNAが作用するために必要な遺伝子を同定し、機能解析することで、その詳しい分子メカニズムを解明することに取り組んでいます。
図 クラミドモナスにおけるmiRNAの生合成
DCL3(Dicer-like3)とRNA結合タンパク質DUS16(Dull slicer16)を含んだマイクロプロセッサー複合体により、primary miRNAは最初のプロセシングをうけます。その後、約21塩基長まで加工されたmiRNAはAGO3(Argonaute3)に取り込まれ、標的mRNAの切断や翻訳の抑制をします。クラミドモナスでは、この様な幹の経路がようやく分かってきましたが、細かな分子メカニズムは未解明です。
クラミドモナスにおけるmiRNAの生理的役割について
miRNAが作れない変異体で何らかの生命現象に異常が観察できないか、たくさんの専門家と共同で研究し、クラミドモナスにおけるmiRNAの役割を解明しようとしています。
miRNAは、標的mRNAの安定性や翻訳活性を配列特異的に制御することで、多細胞生物において多様な生命現象(発生・分化、増殖、がん化など)を制御することが知られています。では、miRNAのそうした多様な機能は進化の過程でいかに獲得されてきたのでしょうか?またその基となったmiRNAの始原的役割とはどのようなものであったのでしょうか?私たちは単細緑藻のクラミドモナスmiRNA機能に注目し、miRNAと多様な生命現象との接点を見出すことで、こうした謎の解明に迫れると考え研究を進めています。
私たちのmiRNA変異体を使った研究から、クラミドモナスでは光合成装置の光防御機能などの環境応答にmiRNAが関わっている可能性があることが分かってきました。こうしたmiRNA変異株における表現型の異常を分子レベルで丁寧に解析することに取り組んでいます。